Trick or ?





食堂についた刹那は愕然とした。

食堂の食事はビュッフェ方式になっている。
好きな料理を好きなだけ取る事が出来るのだ。
それが功を奏し食べ過ぎてしまう事がある。

今日もそうだ、沢山の料理が机を飾っている。
しかし、その机の様子がいつもと違う。
机の上が黄色と緑で彩られていたのだ。

「何だコレは・・・」

刹那は知らずと感想を漏らしていた。
呆然と立ち尽くす刹那の後ろから声がかけられた。

「どう?今日の料理、素敵でしょ?」

楽しそうに声をかけてきたのは、
ソレスタルビーイング戦術予報しのスメラギ・李ノリエガだった。
刹那は驚きを隠しながらクルリと後ろを向いた。
背後を簡単に取られた事がショックだった。
ガンダムパイロットとしては、背後を取られる=死を意味するに近い。
ソレをあっさりとやってのけたスメラギはやはり只者ではないのだろう。

「どう?」

相変わらずスメラギは楽しそうに声をかけてきた。

「・・・ぇぇ、まぁ・・・」

刹那は気の無い答えを返した。

「あらあら、気に入らなかった?」

スメラギはやや残念そうに答えた。

「・・・ぃぇ・・・そんな事は・・・」

シュンと小さくなるスメラギを見て刹那は慌てて言葉を探した。

「本当に!?そう思ってる!?」

スメラギは急に喜びだし刹那に質問を浴びせた。
人との馴れ合いを好まない刹那は、この状況をどう打開するか考えを巡らせていた。

「・・・ぇぇ、どれも美味しかったです・・・」

思いついた言葉はコレだけだった。
刹那は兎に角この状況を打開し、その場から離れてしまいたいと思っていたからだ。

「本当に!?」
「・・・はい・・・」

そう答えると、スメラギの表情は一気に明るくなった。

「よかった〜!この企画私が考えたのよ♪で、どれが一番美味しかった?」

そう聞かれ、刹那はギクリとした。
なぜなら食べるどころか料理にすら手をつけていなかったからである。
まさかソコまで踏み込んで質問されるとは思っていなかったからだ。

「・・・どれと言われても・・・」
「早く答えなさいよ〜」

スメラギは嬉しそうに身を乗り出して聞いてきた。
刹那はニコニコと笑いながら質問をしてくるスメラギに圧倒され一歩後ずさった。

「もしかして、どれも美味しかったから、甲乙つけられないとか?」

なかなか答えない刹那にスメラギはさらに質問を重ねた。

「・・まぁ・・・そう・・・ですね・・・」

刹那は曖昧に答えた。

「そうよね〜!私の企画なんだもんね〜!失敗するわけ無いわよね♪」

スメラギはそう答えると、ウキウキと跳ねるように、
食事の乗った机へと向かっていった。
その様子を見ていた刹那は、
ようやく一難去ったかとため息を付き自室へ戻っていった。






自室へ戻った刹那は先ほどの光景を思い出していた。
黄色と緑色で覆いつくされた机。
その発案者であるスメラギの嬉々とした姿。
どれをとっても自分には好ましいものではなかった。

それにしてもスメラギさんはあんな事思いついたんだ?

刹那に一つの疑問符が浮かんだ。
全く持って検討がつかない。
それにしてもスメラギのお陰で食事を夕食抜く事になってしまった刹那は仕方なくベットへともぐりこんだ。
今日はこのまま寝てしまおうと考えていた。
その時部屋のチャイムが鳴らされた。
刹那は扉の向こうに居る人物を予測しながら扉を開けた。
人との馴れ合いを嫌う刹那の部屋を尋ねてくる人物など多くは無かったからだ。
開けた扉の向こうに居た人物は刹那の予想を外すこと無くソコに立っていた。

「Trick or treat.!」

扉の向こうから現れたロックオンの第一声に刹那は何ごとかと驚いた。
そして、刹那は明らかに不快な感情を顔に出した。

「なんだよ、怒る事はないだろ?」

そう言うとロックオンは部屋の主である刹那の了解を得ることなく部屋へと入ってきた。
刹那の横を通り過ぎたロックオンから甘い香りがした。
良く見るとロックオンの手には食事の乗ったトレイが手にされていた。
トレイの上には、カボチャのサラダ、カボチャのラザニア、カボチャのコロッケなどなど、
兎に角カボチャでできた料理が顔をそろえていた。

「ソレよりお前めしくってないだろ?」

ロックオンから飛び出した言葉に驚いた。
どうやら、先ほどのやり取りを見られていたらしい。

「確かに食事は取っていないが、問題は無い」

その言葉を聞いたロックオンはため息を付いて答えた。

「そんな事じゃお前身長伸びないぞ」

その言葉を聞くと刹那は明らかに不機嫌な表情になった。
やはり身長の事は気になっているらしい。

「たった一回の食事が身長に関係してくるとは思わん」

刹那はきっぱりと言い放った。
ロックオンはヘイヘイとあっさり引き下がっていった。
そして、ロックオンは手にしていたトレイを刹那の机へ置き、座るように促した。

「ほれ、食えよ」
「いらん」

刹那は即答した。
そして促された椅子ではなくベットへと腰を下ろした。

「何でだよ?せっかく持ってきてやったんだぜ?」
「誰もたのんでいない」
「そりゃぁまぁ、そうだけどさ〜」

だからといって無下に断る事は無いだろう?とロックオンは続けていった。

「それにしても、何で食わねんだよ?」

ロックオンは素直に疑問を刹那に投げかけた。

「そんな事、貴様に関係あるのか?」

またもや刹那は即答した。
しかし、今度のロックオンは引き下がろうとはしなかった。

「なんだよ、食わない理由?きちんとした理由を聞くまでは帰んないからな」

ソコまで言い切ると、ロックオンはああそういえばと、何かを思い出したように言葉を続けた。

「ところで、さっきの質問の答え覚えてないか?」
「質問?」

刹那はわけがわからないという顔をした。

「だからさっき聞いただろ?Trick or treat.って」

刹那はさらにわけがわからないという顔をした。

「何だ?お前まさか気付いてないのか?」
「どういうことだ?」
「今日はハロウィンだぜ?」

そう言われ刹那は「ぁぁ、なるほど」と合点がいった。
だからといって、食事をカボチャ一色に染める必要は無いだろうと思った。

「それより早く答えろよ、Trick or treat.?」
「菓子などこの部屋にない事くらい知っているだろう」
「じゃぁ、いたずら決定な」

ロックオンは嬉しそうに答えた。

「ほれ、目ぇ閉じて口開けてろよ」

刹那はいぶかしげな顔をした。

「何だよ、ほら早くしろよ」
「何故そんな事をしなくてはならんのだ」
「いいから早くしろって」

ロックオンは刹那に、早く、早く、と迫った。

「今回だけだぞ?」

刹那がそういうとロックオンは少し悩むと、わかったと答えた。
その答えで交渉は成立した。
刹那はロックオンが言った通り、目をつぶり口を開けた。
すると、テーブルの方からカチャリと音がした。
刹那を嫌な予感が覆っていった。

「いいか〜?チャンと口開けてろよ〜」

そういうと一つの気配が刹那へと近づいてきた。
そして口へと何か入れたのだ。

「ほれ、チャンと噛んで食えよ」

やられた!っと刹那は思った。
苦々しげにロックオンを見やると、
刹那は口を手で押さえながら口内に広がるカボチャの味と格闘を始めた。
そして、口の中へ無理やり入れられたカボチャを無理やり飲み込んだ。
その様子を不思議に思ったロックオンは「大丈夫か?」と刹那を覗き込んだ。
刹那は半分涙目になりながらロックオンをにらんだ。

「大丈夫なわけあるか!」

刹那は怒りをあらわにしながら答えた。

「な!?変な味はしないはずだぜ?さっき俺が食堂で食ってきて旨いと思ったものしか乗せてないはずだ」

ロックオンは少し戸惑いながら答えた。
確かに人の味覚は千差万別。
自分が美味しいと思ったものが人に美味しいとは限らない。
でも、だからといってココまでの反応を示すとは思っていなかったのだ。
刹那は慌てて冷蔵庫まで行き中に入っていたお茶を口に含み飲み下した。

「味の問題じゃない!素材の問題だ!」
「素材?」

ロックオンは反芻しながら考えを巡らせた。
味が悪いわけじゃなくて中身が悪いって事だよな?
そして、ロックオンは一つの答えにたどり着いた。

「刹那?もしかしてお前」

思い当たった言葉を言い切る前に刹那に言葉を重ねられた。

「だからってなんだ!」

なんだ、そういうことかとロックオンは合点が言った。
すると何だかおかしくなってきた。
刹那が食堂に入ってくるなり立ち尽くしていたことも、
スメラギさんへの対応がどこかおどおどしかった事も。
ロックオンは笑いを抑える事が出来ずにクスクスと方を揺らした。

「笑うな!好き嫌いの一つや二つ誰にでもあることだろう!」
「まぁ、確かにそうだけど、でも、カボチャか」

ロックオンは笑い続けた。
それは当然のように刹那の怒りを逆撫でした。

「いい加減笑うのを止めろ!」

刹那はそういいはなつとロックオンの腹へ向けて思いっきり拳を投げつけた。
流石に聞いたようでロックオンは悶絶した。

「な、殴る事は無いだろう」

ロックオンは殴られた腹を押さえながら反論した。

「そんな事はどうでもいい、兎に角その食事をもって出て行ってくれ」
「わるい!わるかったって!まさか刹那がカボチャ嫌いだ何て知らなかったから、許してくれよ。な?頼むよ」

そう言われた刹那はどうしてやろうと軽く悩んだ結果を口にした。

「なら、貴様からキスをしろ」
「え!?」

ロックオンは一気に赤面した。
その姿を今度は刹那が嬉しそうに眺めていた。
ロックオンは刹那と付き合い始めてから自分の中で何か変化する物を感じていた。
昔ならキス一つでこんなに赤面する事も無かったのに。

「本当にきすしなきゃだめか?」

おずおずと刹那へと質問を返した。

「当然だ」

刹那はきっぱりと言い放った。
ヴー仕方が無い、とロックオンは刹那へと近づいていった。
そして自分より幾分体温の低い唇へと自らの唇を重ねた。
すると、刹那の舌がロックオンの歯列をなぞり口内へと侵入して行った。

「ん・・・ふ・・・ぅ・・・」

ロックオンから甘い声が漏れる。
刹那の舌はロックオンの口内を隅から隅まで堪能して行った。
そして満足したのか、唇が離れていった。

「くっそ、カボチャの味がしやがる」

刹那は憎憎しい顔をしながら舌をだした。






End