散歩
部屋の呼び鈴が鳴り刹那は読んでいた資料から顔を上げた。
ココは東京にあるとある一室。
この部屋に尋ねてくる人間など限られていた。
刹那は呼び鈴を鳴らした人間のおおよそを予想しながら、
セキュリティモニターを覗いた。
ソコには予想を反することなく一人の青年が立っていた。
ロックオン・ストラトスそれが青年の名前だった。
刹那はその姿を確認すると扉のロックを開けた。
「・・・入れ」
刹那は短くそういうとセキュリティモニターから離れた。
少しするとロックオンが部屋へと入ってきた。
その手にはビニール袋が握られていた。
「何をしにきた?」
刹那は短く疑問を口にした。
「何しにって、遊びに来たんだぜ」
ロックオンは楽しそうにビニール袋を刹那に見せながら答えた。
そして、ベットへ陣取り袋の中身を広げ始めた。
その姿を見ていた刹那は思わず言葉を口にした。
「・・・俺の事情は関係無しか」
「何か忙しいのか?」
不思議そうに小首をかしげて質問を返してくる。
全くこちらの状況がわかっていないようだ。
まぁ、確かに何も言わずに扉を開けたこちらも悪いが・・・
「次のミッションの資料を読み込んでいるところだ」
刹那は素直に答えた。
ロックオンはなるほどと合点が言ったような顔をした。
「それなら俺も読んだぜ」
そういうと、ロックオンは刹那の資料を覗き始めた。
「うわ、これ俺の資料より細かくないか!?」
「そうか・・・」
刹那は気にした風も無く聞いてきた。
「ああ、機動性なんかは同じように載ってたが、所持可能性のある武器類なんて載ってなかったぜ」
「そうか」
それだけ答えると刹那は再び資料へと集中し始めた。
「俺の事は放置か!」
ロックオンは大きな声で反論した。
「当たり前だ、外で騒がれたら五月蝿いからな」
刹那はさも当然のように答えた。
「は!俺は外では騒がないぞ!」
「信用できん」
ロックオンの反論はあっさりと否定されてしまった。
な!とショックを受けたロックオンだが、こうなった刹那には何を言っても聞かない事を重々承知している。
仕方が無い、とベットへ寝そべりもって来たお菓子を片手に雑誌を捲り始めた。
資料を片手に刹那は仕方ないとベットへ腰を下ろした。
ロックオンは自分の横に現れた刹那の腰に腕を回した。
自分より幾分低い体温が心地いい。
刹那はソレを嫌がることなく受け入れた。
静かだが、穏やかな時間が流れていた。
一体どれだけの時間そうしていたのだろう。
刹那にかけていた腕か疲れてきたことを感じながらロックオンはあるページに釘付けになっていた。
そして、ロックオンはどうしても行きたくなった。
「な〜刹那〜、刹那ってばさ〜」
ロックオンを無視して刹那は残っている資料に集中していた。
「刹那〜、無視すんなよ〜」
刹那は相変わらず気にすることなく資料に目を通している。
その姿に業を煮やしたのかロックオンは刹那の腰を両脇から挟み、刹那の身体を揺らし始めた。
「刹那〜、刹那く〜ん」
「五月蝿い」
刹那は資料から目を離すことなくキッパリト言い放った。
「なぁ〜少しくらい話聞けよ〜」
ロックオンはさらに刹那の身体を揺すった。
刹那はソレに全く動じる事がない。
流石に身体を揺らされるのは相当五月蝿かったらしい。
刹那は自分に回されているロックオンの腕を外そうとした。
すると腕はガッチリと刹那を掴んだ。
「・・・離さないぞ」
振り向き抗議をしようとした刹那を、ロックオンは強気に制した。
そのまなざしに刹那は圧倒された。
「何をソコまで必死になっているんだ・・・」
刹那はため息混じりにようやく答えた。
「お!聞く気になったか!?」
「お前が五月蝿くするからだ」
嬉々として答えるロックオンに、刹那は呆れながら答えた。
「散歩に行かないか刹那」
「は?」
唐突な答えに刹那はあっけに取られた声を上げた。
何故いきなり散歩なのだ。
確かに外の天気はいい。
だからといっていきなり思いつくものでもないだろう。
「何を考えている?」
刹那はロックオンの考えを測りかね、思わず質問を返した。
「ま〜ま〜いいからさ〜」
そう言うと、ロックオンは見ていた雑誌を畳むと上半身を起こした。
「な、あんまり根つめすぎるのも良くないぞ〜」
何故かとても楽しそうなロックオンの姿。
一体何があったんだ。
刹那はますます測りかねていた。
ソレよりもまだ読みかけの資料の事が気になった。
「まだ、資料を完全に読んでいない」
「そんな事気にするなよ」
「気にする」
刹那は浮かれているロックオンに即答して制した。
「あと少しだから、コレだけ読ませてくれ」
刹那は残り少なくなった資料をさっさと読ませてしまいたかった。
外出するならしてもいいが、出来ればソレが終わってからと思っていた。
「本当にあと少しか?」
ロックオンは怪訝そうな顔をして資料を覗き込んできた。
「ああ、本当だ」
刹那は残り少なくなった資料を見せながら答えた。
「わかった。ソレ読んだら散歩行くぞ!それまで待ってやる」
出来るだけ早くしろよとロックオンはつけたしまたベットで雑誌を捲り始めた。
何でそんなにふてぶてしい態度を取られなくてはいけないのか刹那はわからなかった。
確かにミッションが始まってから合う時間は減ったかもしれない。
けれども、チョクチョクロックオンから会いにくるわけで。。。
全く原因がわからない。
兎に角、早くしろと言われたわけだし出来る限り早く資料を読み込む事にした。
「・・・読み終わったぞ」
先ほどの会話からさほど時間は経っていない。
刹那は本当に急いで資料を読んでくれたようだ。
「お!本当か!?」
ロックオンは嬉しそうに飛び起きた。
「所で何で急に散歩なんだ?」
刹那は素朴な疑問を口にした。
まぁ、確かに自分の部屋には何も無い。
必要最低限の物しか置かれていない部屋。
そうなると、することなど、たかがしれてくる。
だからこその散歩なのだろうか。
いつもは部屋でダラダラと過ごすことが多いのに。
「何眉間に皺寄せてんだよ、俺が行きたいから散歩に行くんだよ」
どうやら、思案している間に眉間に皺が寄っていたらしい。
「若いうちから皺寄せてると後がつくぞ」
そういうとロックオンは刹那の額に手を伸ばした。
その手を払いのけると刹那はきつい目でにらみつけた。
「皺の一つや二つ気にしない」
「何言いやがる、せっかく綺麗な顔してんだぜ?勿体無いと思わないのか」
「思わん・・・」
短く答えられ、ロックオンは額に手をやった。
「俺は嫌だぜ〜大事な恋人の顔がしわかるけってのは」
そこで刹那は驚いた。
恋人、何のためらいも無くロックオンの口から発せられた言葉。
ソレは確かに事実だが、改めて言葉にされると気恥ずかしい。
「な〜それより早く散歩行こうぜ散歩!」
「なんで散歩なんだ?」
「ま〜ま〜いいから、いいから」
それだけ言うと、ロックオンは刹那の腕を引きずって部屋を出た。
こんな時、身長差が恨めしく感じられた。
半ば引き摺られるようにしてやってきたのは近くのショッピングモール。
一体こんなところに何の用があるんだと刹那は思った。
対照的にロックオンは楽しそうでウキウキと背中に書いてある様だ。
全く何が楽しいのかわからない。
ただ、手を繋いでショッピングモールを歩く事は初めての体験だった。
コレはコレで構わないかと刹那は思っていた。
するとロックオンが、あるペットショップの前で足を止めた。
「お、ココだよココ」
どうやらロックオンには目的地があったようだ。
「ココがどうした?」
疑問に思い刹那は問いかけた。
「いいから、いいから」
ロックオンは躊躇うことなく中へ入っていった。
手を繋いでいた刹那も当然のごとく中へ入る事になった。
中は若い女性に受けそうなモダンな感じ。
透明なゲージの中では可愛らしい子犬が愛想を振りまいている。
自分達には全く無縁の世界。
こんなところに一体何の用があるんだと刹那は思った。
「ココでペットの貸し出しやってるって本で読んだんですけど」
「はい、やっておりますよ」
明るい店員さんの声がした。
ロックオンの発言で刹那は合点が言った。
雑誌を読んでいて急に散歩に出ようといったロックオンの行動は、
どうやら、ココで動物を借りて散歩をしてみたいという欲求を満たすための物だったのだ。
そんな事くらい素直に言ってくれればいいのにと刹那は思った。
一体どんなペットが貸し出されているのか興味が湧いた刹那はロックオンの横から顔を出した。
店員さんが持ってきたペットのアルバムには愛くるしい姿の動物達が映っていた。
「どんな子がお好みですか?」
「犬がいいかな」
「犬ですね」
店員の質問にホイホイと次から次へと答えていく。
「あ、コイツなんてどうですか?」
「セツナくんですか?」
刹那は自分の名前を呼ばれてギョッとした。
良く見るとロックオンの指差す犬の写真の下に刹那と書かれていた。
自分と全く同じ漢字。。。
ロックオンは何を考えているんだ。。。
刹那は呆れたため息を付いた。
「コイツ性格どうなんですか?」
ロックオンは写真を指差しながら店員に聞いた。
「チョット気が強いところありますけど、優しいいい子ですよ☆」
「本当ですか!?じゃぁコイツに決めます」
「ありがとうございます」
刹那はそのやり取りをあっけに取られながら見ていた。
勝手に連れてこられたペットショップで、
勝手に貸しペットを決められていく。
しかも自分と同じ名前ときている。
本当にロックオンは何を考えているのかサッパリわからない。
呆れた様子で見ているとペットショップの奥から、犬を抱えた店員がやってきた。
「この子が刹那くんです」
「ありがとうございます」
ロックオンが受け取った犬は日本犬。
柴犬の子犬だろうか?
茶色い毛並みに耳がピント立ち、尻尾が巻いている。
ロックオンの手に抱かれた犬刹那はロックオンの顔を舐め始めた。
「ははは、くすぐったいなコイツ」
そう言いながら犬刹那を刹那へと向けた。
「刹那も持ってみろよ」
楽しそうに犬を差し出すロックオンの姿に逆らえず手を出した。
「ワン!」
いきなり犬に吼えられた。
「何だよ刹那、いきなり犬に嫌われてんじゃん」
ロックオンは笑いながら犬刹那を地面に置いた。
「んじゃ、コイツ借りてきますね」
ロックオンが嬉しそうにそういうと店員が明るく答えた。
「はい、いってらっしゃいませ!」
その声を後ろにペットショップを出た。
ロックオンは楽しそうに犬のリードを引きながら近くの公園までやってきた。
道中、あら可愛いわんちゃんね、と声をかけられながら歩いてきた。
ロックオンはその言葉がまんざらでもなかったらしく、
声がかけられるたびにわざわざ一度止まって可愛いでしょ〜と自慢して歩いていた。
コレが普通の生活と言うものなのだろうか?
ガンダムマイスターの自分達にとっては全く無縁の世界。
もし、自分が戦場で育っていなければ、あの時ガンダムに出会っていなければ、
こんな事をしていたのかもしれない。
学校にも通っていたのかもしれない。
犬の後ろを歩きながら刹那は考えていた。
「よし、この辺ならいいだろう」
広い芝生の広場へ出たところでロックオンは声を上げた。
そして、犬についていたリードを外したのである。
何処から取り出したのかボールを手に犬と戯れ始めた。
ボールを投げた方へ犬は走り、咥えるとロックオンの元へもって戻った。
「おい、刹那もやってみろよ!」
嬉しそうに声を弾ませながらロックオンは刹那を誘った。
その姿があまりに楽しそうだったので刹那もやってみる事にした。
犬に近づくと相変わらず吼えられた。
ソレを気にすることなく、ロックオンからボールを受け取り投げた。
すると、犬は一直線にボールへ向かって走っていった。
そして、ボールを咥えると一直線にロックオンの元へと走っていった。
「何だ刹那、今ボールを投げたのは刹那だぞ、そっちへ持って行かないとダメじゃないか」
ロックオンは犬刹那をしかった。
しかし、犬刹那は全く聞いていない。
もう一度ボールを投げてくれとロックオンにせがんでいる。
刹那はやっぱりと言う気持ちで一杯になった。
この犬は俺に喧嘩を売っている。。。
犬と目が合った。
何故か犬に笑い飛ばされた気分になった。
「ロックオン、ボールをくれ」
刹那はロックオンからボールを受け取ると思いっきりボールを投げた。
すると犬は一直線にボールを追いかけていった。
「な!刹那!今のは投げすぎだろう!」
「あの犬にはあのくらいやってやっても大丈夫だ」
少しすると、犬がボールを咥えて戻ってきた。
やはり大丈夫だったようだ。
「おっ前賢いな〜」
その姿を見たロックオンは犬刹那を抱きかかえて誉めてやった。
するとまた犬刹那はロックオンの顔を嘗め回し始めた。
「あはは!お前くすぐったいって!」
ロックオンは犬刹那の頭をグリグリなでてやった。
「あら、その犬賢いのね」
どうやら先ほどの様子を見ていたらしい小太りの女性が声をかけてきた。
この女性も犬を片手にリードを引いていた。
ソレを皮切りに周りで散歩していたご婦人方がロックオンの周りを囲みだした。
一気に小さな和が出来た。
「この犬は何処で買ったの?」
「いえ買ったんじゃ無いんです」
「あら、じゃぁ拾ったの?」
「違います、ソコのペットショップで借りたんです」
「へ〜!借りたの!」
「それにしても賢い犬ね!」
「本当!家の犬にもみならってもらいたいわ!」
話は刹那を置いてドンドンと進んでいく。
人と馴れ合う事が嫌いな刹那は近くのベンチへ腰を下ろした。
刹那はため息を付いてその様子を見ていた。
すると次第に話はこちらの方へ向いてきた。
「何処の人?この辺に住んでるの?」
その様な会話をロックオンは上手い具合に交わして行く。
その辺は流石だと思う。
自分では上手く交わすことの出来ない会話だ。
「ところで一緒に居たのは弟さん?」
「・・・ええ・・・まぁ・・・」
ロックオンは気まずそうに答えた。
その会話を聞いた瞬間、刹那は立ち上がりロックオンへと歩み寄った。
「ロックオン、ソロソロ犬を返す時間だ」
「へ?」
驚くロックオンに刹那は目配せした。
「あらそうなの、残念ね」
最初に声をかけてきた小太りの女性が答えた。
刹那はロックオンの腕を掴むと強引にその場から引き剥がした。
ロックオンは失礼します、と挨拶をしながら刹那に引き摺られて行った。
ペットショップで犬を返した刹那は機嫌が悪かった。
「なぁ刹那、怒ってるだろ」
「何の話だ?」
刹那はロックオンの話を聞こうとせず、ズンズント腕を引っ張り自らの部屋へと引きずり込んだ。
「なぁ、やっぱり怒ってるだろう」
「確かに、怒っていないといえば嘘になるな」
やっぱり、とロックオンは思った。
そして刹那はロックオンを部屋の扉へと追いやり、自らの両手で逃げ場を塞いだ。
「わるかったって、お前と同じ名前の犬を選んだ事か?」
「違う・・・」
「じゃぁ、何怒ってんだよ」
ロックオンは皆目見当が付かないといった感じで刹那を見やった。
「何故、俺を弟と答えた?」
「な!?」
ロックオンはそのことかと思った。
確かに昔よりも同性愛に対しての世間の対応は柔らかくなった。
だからといって、いきなり自分達がそうですと主張する事はロックオンにとって戸惑う事だった。
「それは、な?わかるだろ刹那」
「わからんな」
刹那に逃げ道を塞がれているロックオンは身動きする事ができない。
刹那の強い視線に曝されてどうしていいのか分からなくなっていた。
「お前は俺の事が嫌いなのか?」
「そんな事あるわけ無いだろ!」
ロックオンは刹那の問いに思いっきり反論した。
「じゃぁ、俺の事はどう思ってる?」
「それは・・・」
いきなりの問いにロックオンは赤面した。
そして、自分の口を手で押さえながらそっぽを向いた。
「やはり俺の事は嫌いなのか?」
「違う!」
ロックオンは振り向き強く否定した。
そんな事思ってない、思っているはずが無い。
ただなんていうか。
「ならば再度聞く、俺の事をどう思っている?」
「・・・そんな恥かしい事聞くなよ・・・」
そうなのだ、恥かしいのだ、改まっていきなり聞かれて困惑している。
自分から湯気が出ているんじゃないかって不安になるくらいだ。
「何を恥かしがることがある?今は二人しか居ない」
「・・・ソレはそうだけど・・・」
行為の後、戯れている時とは違う。
真剣なまなざしに曝されてロックオンは戸惑っていた。
「じゃぁ、ロックオンはどうしたら気持ちを口にしてくれるんだ?」
「・・・それは・・・」
「俺達はそんな軽い関係だったのか?」
軽い関係なんかじゃない。
この思いは軽くない。
だからこそ簡単に口に出来ないのだ。
「どうした?大丈夫か?俺は何か悪い事をしたのか?」
刹那にそういわれ自分が今にも泣き出しそうなことに気付いた。
「刹那は・・・何も悪い事・・・してなっんかない」
そうだ、悪いのは自分。
自分の気持ちを素直に伝えられない自分がもどかしい。
自分がこんなに愛しているのだと再確認させられた。
「・・・刹那・・・愛している・・・」
「やっと言ったな」
そういうと、刹那はロックオンの頬を両腕で包み込み軽くキスをした。
「今夜はその言葉を沢山聞かせてくれ」
そういうと刹那はロックオンをベットへと導いた。
End
と言うことで散歩ネタです。
何となく思いつきました。
我が家でも犬を飼ってますが賢くありません。。。
ボールを与えると一人で遊び始めます。。。
返して?って言うと怒られます。。。
ヒドヒ。。。orz