携帯の着信音が部屋に響く。
画像着信じゃなく音声着信。しかも非通知だ。
けれども暗号通信ではない。
CBからの入電ではない様だ。
では一体誰が?
刹那は疑問を持ちながら電話に出た。

「あーもしもし?オレオレ、わかるか?」

携帯端末から聞こえる声はしゃがれている。
刹那は一瞬「オレオレ詐欺」かと思った。
けれどもそんな古い詐欺が残っているわけが無い。
しかし、この声は何処かで聞いた事のある声で・・・
こんな事をする人間は一人しか居ない。

「・・・その声はロックオンか」
「お!バレタか!流石にこの声じゃバレないと思ってたんだけどなぁ」

何故だか悔しそうな声がした。
それにしても、しゃがれた感じからして風邪でも引いたのか。

「・・・風邪か?」
「いや、まさか。ボイスチェンジャーだ」

ロックオンは誤魔化すように答えた。

「そんなごまかしはいらん。おとなしくしていろ」
「へ?」

刹那からでた意外と優しい言葉にロックオンは拍子抜けした。

「いいな、おとなしくしてろよ」

刹那はそう言うと携帯を切った。







電話を切って町へ出た刹那は困っていた。
心配になって電話を切り見舞いに行こうと思った。
しかし、見舞いなど一度もしたことが無い。
手ぶらで行こうかとも思ったが気が引けた。
何か栄養になるものを、と思いながら市場を歩いていた。
市場は相変わらず賑やかだった。
魚や生鮮品、果物、野菜とイロイロな物が並んでいる。
その中から何をチョイスするか悩んでいた。
栄養があって消化がいいもの。
何度考えてもお粥しか思いつかない。
だが、かゆなど食べた事も無ければ見たことも無い。
携帯端末で材料を検索ながら市場を回る。
自分は一体何をしているんだ・・・
そう思いながらも行動が止められない。
心配だ。
この時代になっても風邪の特効薬は開発されていなかった。
風邪は簡単な病気だ、その分こじらせると厄介だ。
兎に角、急いで様子を見に行こう。
逸る気持ちを抑えながら材料を買い揃えていく。
あの枯れた声が心配だった。
携帯端末で検索した材料を買い揃えると刹那はエクシアでロックオンの元へと向かった。







コンコンと部屋の扉が鳴らされた。
その音に気付きロックオンは扉に出た。
ソコには大きな紙袋を抱えた刹那が立っていた。

「よぅ、刹那。お前からこっちに来るなんて珍しいな」

ソコに立っていたロックオンの姿は予想していた以上に元気だった。

「風邪を引いたんじゃなかったのか?」
「あ〜その話なんだが・・・」
「兎に角、粥を作ってやるベットでおとなしく寝ていろ」

ロックオンが何かを言いかけたのを刹那は遮り、ベットへと移動するよう命令した。
このキカンボウは言い出したら一切こちらの話を聞かない。
仕方が無いのでベットでごろりとお粥が出来るのを待つことにした。

その頃刹那は携帯端末のレシピとにらめっこをしていた。
軽量カップに米を入れ、水に浸し中弱火で火にかける。
米が水を吸い、鍋肌に付かなくなったら最弱火にして煮る。
刹那はその作業を黙々とこなしていた。
粥を作る事はこんなに難しかったのか。
普段、キッチンに立つことのない刹那は悪戦苦闘していた。
中弱火といわれても、最弱火といわれても、
どのくらいの火加減にしていいのかサッパリわからないのだ。
シバラクすると香ばしいにおいがしてきた。
刹那は驚き鍋の中を見ると、そこの方のお米が焦げているのが見えた。
コレはヤバイと思った刹那は思いっきり鍋の中の米をかき混ぜた。
刹那の見ていたレシピには、お粥は米粒が潰れないように、なおかつ柔らかく、ふっくらと煮るのがコツ、と書かれていた。
しかし、焦げてしまった鍋を見てもうこのくらいでいいかと刹那は思いロックオンの元まで粥を持っていくことにした。

「ロックオン、粥が出来たぞ」

そう言うと刹那は近くにあった机に鍋を乗せた。

「!?」

ロックオンは鍋ごと!?と驚いた。
だが、刹那が自分を心配して一生懸命作ってくれた物だ。
文句を言う前にとりあえず食べてみようと思った。
そして、近くに置かれていたスプーンで鍋から粥を一掬いし、口へ運んだ。

「!?」

ロックオンは口を塞ぎ慌ててキッチンへ走った。
そして、キッチンから刹那へ声をかけた。

「刹那!お前それ味見したか!」
「いや、していない」
「だろうと思った・・・とりあえず一口食ってみろ」

キッチンから戻ってきたロックオンは刹那にスプーンを渡した。
そして刹那は鍋から粥を一掬いすると口へ運んだ。

「!?」

刹那は驚いた顔をしてキッチンへ駆け込んだ。
そして弱々しい声で答えた。

「・・・スマン・・・」

流石に刹那にも答えたらしい。
出来上がっていた粥のご飯には芯が有り、カムだけでガリガリと音がする。
そして口に含むとこげた匂いが口一面に充満した。

「なぁ、刹那、お前料理したことあるのか?」

ロックオンは半ば呆れた声で刹那に聞いた。

「・・・ない・・・」
「な!?お前飯とかどうしてんだ!」

驚いて聞き返すロックオンに刹那は悪びれる事無く答えた。

「・・・ホットドック」
「ホットドック!?他には!」
「ハンバーガーとか・・・」

ロックオンは呆れて大きなため息を付いた。
つまりつまるところ、刹那はジャンクフードで日々の生活を送っている事になる。
そんな人間がいきなり料理を作ろうとしても出来るわけがない。
しかたないな、とロックオンは動き出した。

「刹那こっち来い」

ロックオンは刹那にキッチンへ来るように促した。

「いいか〜粥ってのはこうやって作るんだよ」

そういうとロックオンは備え付けの棚から、オート麦を出した。
鍋の中いっぱいに水を張ると
オート麦を水の中へ入れた。

「とりあえず、この状態で30分待つんだ」

刹那は興味津々と言った感じで見つめている。

「粥は麦で作るのか?」
「ああ、俺の里ではな」

ロックオンは軽く答えた。

「とりあえず、麦が浸りきるまで話そうぜ」
「・・・ああ」

そういうとキッチンタイマーをセットしキッチンから机へ戻っていった。

「とりあえず、お前が心配してきてくれたのは嬉しいよ」
「・・・」

刹那は恥かしそうに塞いだ。

「この声聞いて心配してきてくれたんだろ?」
「・・・」

刹那は自分の行動が急に恥かしくなったのか一言も話さない。
でも、心配してくれているのは痛いほどわかる。
だから余計に言い出しにくい。

「あ〜実はな〜この声なんだが・・・」
「風邪なんだろ、ならおとなしく寝ていろ」

刹那は畳み掛けるように言葉を発した。

「いや、これ風邪じゃぁないんだよ・・・」

ははははは、と笑いながらロックオンは答えた。

「風邪じゃないのか?」

刹那は心配そうにロックオンを覗き込んだ。

「なんていうか、な、お前にはマダ早い話なんだけどさ〜」

ロックオンは言いにくそうに頬をかいた。

「なんだ?変な病気なのか?」
「病気っちゃぁ病気なんだろうけど、な」

そして、ロックオンは何かを観念したように病名を答えた。

「まぁ、あれだ。酒焼けだ」
「酒焼け?」

刹那は聞いた事の無い病名に戸惑った。

「アレだよ、酒の飲みすぎって奴だよ」
「・・・」

刹那はあっけに取られた顔をした。
風邪だと思って心配してきてみればただの酒の飲みすぎだったなんて。

「なぜ、そんなにも酒を飲みすぎた」

刹那の鋭い突っ込みにロックオンは一瞬たじろいだ。

「まぁ、あれだ、スメラギさんに付き合わされた」

ロックオンは素直に白状した。
そして、冷蔵庫に入っていた酒類を一気に開けてしまった事も白状した。

「それで、咽喉が酒でやけどしたみたいになってんだよ今」
「・・・」

刹那から厳しい視線が飛んでくる。

「わかってるって、今度からは自重するから許してくれよ」
「どれだけ俺が心配したかわかってるのか?」

ズイッと刹那に詰め寄られる。

「悪かったって本当にそう思ってるって」

まさか心配してきてくれるなんて思ってもいなかった。

「本当に心から心配させて悪かったって思ってる」
「なら、俺にキスしろ」
「な!?」

急に話をそちらへ振られロックオンは慌てた。
何で急にそっちの話になる。
確かに悪かったと心から思ってる。
だからといってその対価がキスだなんて・・・

「本当にしなくちゃだめか?」
「何か問題があるのか?」

いや、問題は無い。
ただ、恥かしいだけだ。
この歳になってと思うかもしれない。
だが、恥かしいのだ。
刹那はその姿を満足そうに眺めている。
相変わらずやな性格だと思う。
刹那は早くしろと視線で訴えかけてくる。
仕方ないとロックオンは決意を固めた。
そして刹那の自分より少し体温の低い唇に軽く口付けた。

「コレだけか?」

刹那は満足そうに答えた。

「こ、これ以上何させる気だよ!」

ニヤリと刹那が笑ったところで、セットしてあったキッチンタイマーが鳴った。
ロックオンは助かったと思った。
チッと刹那が舌を鳴らす音が聞こえた。

「よし、麦が府や勝ったみたいだしキッチンいくぞ」

ロックオンは気持ちを切り替えるように立ち上がった。
そして刹那も仕方なくソレに続いた。
鍋の中で水を含んだオート麦を見てロックオンは満足していた。
そしてその中に塩を一つまみ入れゆっくり煮始めた。
ロックオンは鍋の中からオート麦を取り出し一口、口へ含んだ。

「ん〜こんなもんかな」

そういうと、鍋の中に牛乳を入れ始めた。
刹那はその姿を唖然として見つめていた。
自分の調べたレシピの中にはそんな事一言もかかれて居なかったからだ。
するとロックオンは出来た粥を器に盛り、その上からハチミツをかけ始めた。
そしてソレを刹那の前へ出した。

「これが、俺の田舎の粥だ、食え」

刹那は言われるまま粥を口にした。

「!?・・・うまい・・・」
「だろぉ!」

ロックオンは嬉しそうに胸を張って答えた。

「所で一つ聞いて言いか?」
「なんだ?」

ロックオンは何か不満でもあるのか?と思いながら刹那の問いに答えた。

「何故、俺に非通知で電話をかけてきた?しかも音声通信で・・・」
「それはだなぁ・・・」

ロックオンはまた恥かしそうに頬を掻いた。

「なんていうかさ、あれだよ。いつもと違う声でもわかってもらえたらうれしいなぁと」
「なんだ、そんなことか」
「なんだとはなんだよ!」

ロックオンは恥かしさのあまり声が大きくなった。
自分が恥をしのんで白状したというのに。

「大丈夫だ、ロックオンのことならどんなに変わってもわかる」

刹那はそういいきった。







なんていうか、恥かしい作品です。
ドリカムの曲を聴いて思いついた話です。
そして、ロク兄は料理上手いだろうなと。
刹那は絶対下手だと思い込んで書きました。
短いですが、楽しんでいただけたら幸いです☆