みんなでお鍋
ぴんぽ〜ん!
小気味良い、軽快な音が部屋中に響いた。
その音を聞いて刹那は何ごとかと驚いた。
この部屋を訪ねてくるものは皆無に等しい。
一体誰が尋ねてきたのだろう。
トレーニングの途中だったが刹那はセキュリティモニターへ移動し覗き込んだ。
するとソコには大きな荷物を二つ抱えたロックオンの姿があった。
「悪りぃ、早く開けてくれ」
刹那はその言葉を聞くと、部屋の扉をスッと開けた。
「よいしょっと」
ロックオンはCBが揃えた机の上に膨大な量の荷物を置いた。
「ふぃ〜重かったぜ」
そう一息つくロックオンに刹那は疑問の言葉を投げかけた。
「なんだ?その荷物は」
刹那は何が何だか分からないという顔でロックオンを見た。
「なんだ?だって!?この間電話しただろ!」
「・・・電話?」
刹那は何の事か分からないと顔に疑問符をつけている。
「この間話ただろ?4人で鍋しようって」
「鍋?」
刹那は未だに何の事か良く分かっていないようだ。
「だから、鍋だよ鍋。鍋する日もちゃんと伝えただろ?部屋チャンと片付けとけって」
「・・・」
刹那は黙り込む。そういえばそんな事この間言われたかもしれない。
しかし、はっきりと記憶に残っていない。
「なんだよ、忘れちまったのか!?道理で部屋汚いわけだ、早めに来て良かったぜ」
そういうと、エプロンを付けたロックオンは部屋を片付け始めた。
飲んだものは飲みっぱなし、ジャンクフードのゴミでゴミ箱はいっぱいになっている部屋を、
テキオパキとロックオンは片付けていく。
「お前、よくこんな汚い部屋で生活できるな?」
生活能力に乏しい刹那にとって、生活環境はさして関係のないものだった。
自分が不快に思わなければソレで良い、といった感じだ。
ロックオンは相変わらず、ゴミを片付けている。
「お前、この机つかってねーだろ、ホコリ堪ってるぜ」
そういいながらロックオンは今度は拭き掃除を始めた。
台所周り、机と人が座るであろう場所だけをチョイスして綺麗にしていく。
「お前、いくらミッション中の仮住まいだからって部屋の掃除くらいマメにしろよな〜」
ロックオンは呆れながら言葉を発した。
「別に生活には困っていない」
「生活に困る困らないじゃない、気分の問題だ」
そういうとロックオンは掃除が終わったのか今度は紙袋の中からごそごそと何かを取り出し始めた。
出て着物は調理器具と土鍋だった。
「今日の鍋は日本風だ」
ロックオンは張り切った声で調理を始めた。
勿論、刹那の部屋に調理器具など一切あるはずが無い。
ソレを承知で、ロックオンは全ての調理器具を持ってきたのである。
大荷物になるのも至極当然な事である。
「所で、4人といったな?」
刹那は相変わらず疑問が解けないといった風にロックオンに声をかけた。
「ああ、宇宙からアレルヤとティエリアも呼んでおいたぞ」
ロックオンは得意げに答えた。
「ティエリアが簡単に地上におりて来るとは思えないが?」
「その辺はアレルヤが上手くやってくれてるって」
当然のようにロックオンは答えた。
そして、食材を取り出すと野菜をざく切りにし、準備を始めた。
その時丁度チャイムの小気味良い音が部屋に響いた。
はいはいはいはい、と声を上げながら、ロックオンはセキュリティモニターを覗いた。
ソコには不満げな顔をしたティエリアを連れたアレルヤの姿があった。
ロックオンは部屋の扉を開けた。
「よう!元気してたか?」
「ええ」とアレルヤが答えた。
ティエリアは何故自分がココに居なくてはいけないのか、相変わらず不満げな顔をしていた。
「まぁとりあえずなか入って椅子に座っててくれ、今準備してるところだから」
そういうと、家の主である刹那の了解を取ることなく、ロックオンは部屋に2人を通した。
「まぁ、何にも無い所だけどゆっくりしてけよ」
当たり前のようにロックオンはそういった。
家の主である刹那はその光景を興味なさ下に眺めていた。
ロックオンは綺麗に掃除した部屋へと二人を案内した。
そしてダイニングの机に座るように指示をした。
ダイニングの机にはガスコンロがセッティングされていた。
正方形の机には椅子が4脚並べられていた。
二人は机を挟むように座り込んだ。
「遠いところから悪いな」
そういいながら、ロックオンは台所へと戻り、鍋の準備を始めた。
「いえ、そんなことないです」
アレルヤは言った。
「何だ、まだ準備は出来ていないのか」
ティエリアが言った。
「ティエリアそんな言い方・・・」
「いや、気にするなアレルヤ。読んだの俺だし。まぁ部屋の住人が片付け下手だった事が原因だな」
そういい、刹那の方へ目をやった。
「何がいいたい」
「なんでもない」
ロックオンはため息を一つ付くと作業に取り掛かった。
ザクザクと野菜を切る音が部屋に響く。
「それにしても4人で食事なんて始めてじゃない?」
アレルヤが言った。
「そうだな〜食堂でも一緒になることマズ無かったからなぁ」
ロックオンがその疑問符に答えを返した。
プトレマイオスの中では、4人はシュミレーションの関係で食事の時間を一緒にすることが無かった。
そのため、マイスター4人が揃って食事を取る事は初めてではないだろうか。
「ソレより早くしてくれ、地上は嫌いだ」
ティエリアが言った。
まぁ、地上嫌いのティエリアから考えると着てくれただけでもありがたい事だ。
アレルヤの説得があってこその現状だ。
アレルヤには感謝しても感謝しきれない。
「ああ、分かってるよ、だから今急いで準備してるって」
そういうと、ロックオンは土鍋に沸かしたお湯の中に具材を詰め始めた。
「後は煮込むだけだからもう少し待ってくれ」
「ふん」
ティエリアは簡単に答えを返した。
「ティエリア、そんな言い方無いんじゃないかい?ロックオンが一生懸命作ってくれてるのに」
「・・・」
そうアレルヤた言うと、ティエリアは押し黙った。
ティエリアはどうやらアレルヤの言う事に反論が出来ないらしい。
まぁ、二人がどういう関係化はあえてココでは触れないでおこう。
恐らくはアレルヤの切なそうな目を見てティエリアが折れたと言う感じなのだろう。
暫く静かな時間が続いた。
ロックオンは鍋を作る事に集中している。
ティエリアは地球に来ていて機嫌が悪い。
アレルヤは必要以上に喋らない。
刹那が何かを言うわけがない。
このなんともいえない空間をどうにかして欲しい。
しかし、4人も居て何も会話が無いというのは悲しい物だと思ったロックオンは話を振った。
「宇宙から地球に来る間も、二人はこんな感じだったのか?」
「はい?そうですけど。なにか?」
「あ、そうなんだ」
ロックオンは苦笑いをした。
アレルヤの答えにロックオンは良く耐えられるなと思った。
それにしても会話の無い空間。
ロックオンには耐え難いものだった。
そう思っている間に、どうやら鍋の中に在る野菜が煮えたようだ。
中に肉を入れていく。
「よし、肉が煮えたら完成だぜ」
そういいながら、机の上にあるIHヒーターの電源を入れた。
IHヒーターはすぐに熱くなった。
ソコに土鍋を置いた。
「よし、これで肉が煮えれば完成だ」
楽しそうに声をあげ、つけていたエプロンを外した。
「おい刹那、お前もこっちに来い」
そう呼ばれ、刹那もしぶしぶ立ち上がり、机に付いた。
土鍋からは美味しそうな匂いが立ち登っている。
一人一人に取り皿と箸を渡し、摩り下ろした大根と、ポン酢を回す様に指示をした。
「よし、そろそろかな」
ロックオンはそういうと、鍋の蓋を開けた。
鍋からは白い蒸気が立ち上り、美味しそうな雰囲気をかもし出している。
「おお!いい感じじゃねぇか!」
そうロックオンが言う通り、中は美味しそうにくつくつと煮えていた。
「皆、熱いから気をつけて食えよ」
そういうと早速と刹那が手を伸ばした
「チョット待った刹那!直箸は禁止だ!使うならこの菜ばしかおたまを使え!」
ロックオンはしかるように言った。
そう、鍋では直箸は厳禁。
そこで活躍する物が、菜箸とおたまだ。
「ちっ」
と刹那は舌打ちをするとおとなしく菜箸で肉を取り始めた。
そして、次へと回した。
その光景を見て、ロックオンは刹那の正面に腰を下ろした。
「さぁ皆ドンドンくってくれ!」
そう言うと、空いていたおたまで、野菜や豆腐、肉などの具を取り始めた。
アレルヤもティエリアもおとなしくソレに従った。
「あれ?お肉もう無いみたいですね」
アレルヤが言った。
おかしい、鍋が始まってマダ時間がたっていない。
野菜は沢山ある。当然豆腐も残っている。
ソレなのに肉だけないというのは。。。
「ロックオン、肉が無いぞ」
恐らく犯人と思われる人物がアレルヤと同じ言葉を繰り返した。
「ちょっとまて刹那!お前、肉しか食ってないだろう!」
「悪いか?」
「当たり前だ!野菜8に対して肉は2で食うもんだ!」
「ふん・・・ソレより肉」
確かに、他の人間に肉が行き渡らないことは不味い。
仕方なく、ロックオンは用意していた肉を追加することにした。
「刹那、ほれ肉だ」
肉を受け取ると刹那は一気に肉を鍋にぶち込んだ。
「な!何考えてやがる!せめて半分ずつとか考えないのか!」
「肉があれば別に他はいらないからいい」
「そんなんだから身長が伸びないんだよ!」
「五月蝿い」
それだけ言うと刹那は肉が煮えるのを待つようにぼーっと鍋を眺めていた。
一方、ティエリアはと言うと、黙々と鍋の中身を自分の取り皿へうつし、食べている。
「ティエリア、美味いか?」
「・・・」
ティエリアに話を振ったはずなのに何も反応が返ってこない。
それどころか、ギャル曽根もビックリな勢いで鍋から取り皿へ、取り皿から口へと野菜や肉の移動を繰り返している。
心配になったロックオンはアレルヤに話を振った。
「アレルヤ、美味いか?」
「はい、美味しいですよ。」
楽しそうにアレルヤは答えた。
「ところで、ティエリアなんだが、さっきから何も言わずに黙々と食ってるが美味いとか不味いとか思ってるのか?」
「間違いなく美味しいと思ってますよ、美味しい物食べてる時のティエリアは黙々と食べますから」
ニッコリと笑顔を作りながらアレルヤは答えた。
そうか、ティエリアも美味いと思ってくれているのか。
少し安堵して席に着き、自分も鍋の具を取り少しずつ食べ始めた。
「ロックオン、肉が無い」
「は!?もうさっきの全部食ったのか!?ってかお前野菜食ってんのか!?」
「・・・」
「肉はやらん、野菜を食え!野菜を!」
そのやり取りを見ていたアレルヤがプッっと笑った。
「なんだ?どうしたティエリア」
「何だか見てると親子のやり取りみたいで」
クククククと面白い物でも見ているかのように笑いをこらえている。
そういわれて、何故か急に恥かしくなってきた。
「そ、そんな事は無いだろう」
「それより、さっきのエプロン姿良く似合ってましたよ」
「な!?何を今更!」
困惑するロックオンの姿を見ていた刹那の雲行きが順番に怪しくなってくる。
そして、その会話に割り込むようにして刹那は言葉を発した。
「ロックオン、肉」
「だから野菜食ってからだっていっただろ?」
「野菜はもう食べた、だから肉」
鍋の中身はもう殆ど無くなっていた。
「肉の前に、もう一度鍋作り直してくるからチョット待ってろ」
そう言うと、ロックオンは残っている野菜を自分の取り皿に移し、鍋をコンロへと持って移動した。
そしてまた、野菜をいれくつくつと煮始めた。
「それにしても、アレルヤがこんなに良く食う奴だとは思わなかったぜ」
「・・・」
ティエリアは一言も答えない。
「美味しかったんだよね、ティエリア?」
笑顔をティエリアに向け質問するとようやくティエリアは口を開いた。
「・・・ああ」
「だって、ロックオン。良かったですね」
嬉しそうにアレルヤはロックオンに対して言葉をかけた。
「それにしても地球に下りてきて良かったですよ。お鍋ってこんなに美味しい物だったんですね」
「だろ?特に今は冷えてきたから丁度美味い時期らしいんだよ」
「それにしても何故急に鍋をやろうと思ったんですか?」
アレルヤの疑問は当たり前の物だった。
ロックオンから急に鍋やるから揃って地球に下りて来い何て言われれば驚きもする。
地球嫌いのティエリアを説得する事にも実はかなり苦労した。
鍋と言うもの事態分からない状態で地球に下りる事も無粋だと思ったので、
事前に、鍋についてイロイロ、あれやこれやと調べてきたのである。
そして、着てみたら日本風の鍋が机の上に置かれたわけだ。
コレが実に美味しかった。
「いや実はな、この間読んでた本で美味そうな写真とレシピ載っててさ・・・」
少し照れて頬をかきながら言うロックオンは可愛らしい。
「なるほど、本に影響されるとは安直な奴だな」
ティエリアの鋭い言葉がグサっとロックオンを刺した。
「まぁ、そう言わないでくれ」
「そのためにわざわざ地球に下りてこなくてはならなかったのだぞ?」
「ソレについては悪いと思ってるって。っと、第二陣できたぞ〜」
そういうと、ロックオンは机に鍋を置いた。
パカッっと蓋を開けるとまた美味しそうに蒸気が上がる。
待ってましたとティエリアが食いついた。
そして、刹那は黙々と肉ばかり食べ始めた。
「だから肉ばっかり食うなって言ってんだろ刹那!」
「五月蝿い」
「五月蝿くて何が悪い!お前の事考えて言ってるんだぞ!」
そういわれ、刹那は黙り込んだ。
そして、反抗するようにまた肉ばかり取り出した。
「だーかーらー!俺の言ってる事聞いてないだろ!」
「・・・」
はぁ、と一息ため息を付くと席に着いた。
席について自分がまだ一皿目も食べきっていない事に気付いた。
「まぁまぁ、ロックオンもそうカッカしないで、楽しく食べる事が鍋のコツじゃないですか」
優しくアレルヤが言った。
「まぁ、そうだな。言われてみれば一理ある」
そういうと、ロックオンは冷え切った一皿目を食べきった。
「ロックオン、肉」
刹那は自分のペースを崩すことなく肉を黙々と食べていたようだ。
「お前がさっき肉っつって大量に入れたろ。だからもう肉は無い」
そういうと刹那はロックオンを鋭い目でにらみつけた。
「そんな顔すること無いだろ?お前が肉全部食っちまったんだから」
「チッ」
仕方が無いという形で、刹那はしぶしぶ野菜を取り始めた。
「・・・まったく」
ロックオンはまたため息を付いた。
そして、2杯目を取ろうとした瞬間鍋を見て愕然とした。
鍋の中身が殆ど無くなっていたからである。
「な!?どういうこと!?」
「ティエリアそんなにおいしかったのかい?」
「・・・」
クスクスと笑いながらアレルヤは笑っていた。
言葉を発することなくもくもくと食べていたティエリアの様子を思い出した。
まさかあの身体の中に鍋の中身が吸い込まれていったのか。。。
ロックオンは驚いて、ティエリアを下から上へ舐めるように見てしまった。
「何か問題でもあるのか?」
「いや無い・・・」
仕方が無い、鍋の具が無くなってしまったのなら次は雑炊の登場だ。
だし汁を少し足して、炊いておいたご飯を中に入れて人に立ち。
全体に日が行き渡ったところで火を止め卵を流し込む。
余熱で卵が固まってきたところで雑炊の出来上がり。
「よし!雑炊の完成だ!食うぞ」
そういうとロックオンは一番乗りといわんばかりにおたまでご飯を取り皿に掬った。
ティエリアも、アレルヤも刹那も順番に雑炊をとり、食べている。
「どうだ?美味いか?」
「はい、美味しいです」
答えが返ってきたのはアレルヤのみ。
他の2人は黙々と食べている。
文句も言わず食べてるって事はうまいって事かな?
と、かってに推測しながらロックオンは雑炊を食べ始めた。
雑炊が無くなるまでそんなに時間はかからなかった。
ティエリアの食べる速度があまりにも速かったからだ。
しかも、大食いときている。
ティエリアがこんなに食べるんだったらもっと野菜とか準備しとけばよかったとロックオンは一人ごちっていた。
「次はなんだ?」
刹那から疑問符が飛んできた。
「鍋はコレで終わりだぜ?何だ?まだ腹減ってるのか?」
「いや、腹はいっぱいだ。まだあるなら辞めて欲しいと思っただけだ」
なるほど、そういうことだったのか。
「何だかんだいって4人での鍋って美味いもんだな!」
「そうですね」
楽しそうに言うロックオンに、アレルヤも賛同した。
他の二人は黙りこんでいるが、特に批判の声も出なかった。
「よし!又今度一緒にやろうぜ!」
今度は何処の国の鍋がいいかな〜
そういいながら、後片付けを始めたロックオンはとても楽しげだった。
初めてマイスターズが4人揃ってるところ書きました。
マイスターズが何故、箸を使えるかとかそういうところは突っ込まないでくださいね(爆
それにしても、お鍋の美味しい時期になってきましたね!
きっとマイスターズも食べていると思いながら書きました。
ロックオンは絶対生活能力が高く、刹那の世話を焼いているとかってに思い込んでいますw