今ある力





「くそったれが!」

誰も居ない、誰も聞いていない海へとロックオンは悪態をついた。
ただやりきれない気持ち。
何処へも持っていけない気持ちをただ吐くことしか出来なかった。

「ロックオン、ロックオン、オコッテル、オコッテル」

ハロが飛び跳ねながらロックオンの元へやってきた。
しかし、今はハロの相手をしている気分には成れなかった。
ただ、このやりきれない気持ちをどうにかしたいと考えていた。

「少し一人にしてくれ」

ロックオンはそう言うと、一人言葉を溢しながら海岸を歩いていった。
海岸は静まり返り、ただロックオンの歩く、サクサクと言う音だけが響いていた。
ハロは仕方なくその場でおとなしくしていた。
けれども、暫くすると人恋しくなったのか、ミーティングルームへと向かった。
その道中、ハロは刹那に出会った。

「セツナ、セツナ」

ハロが単品で居る事は珍しい。
いつもなら必ず飼い主が付いているはずだ。
不審に思った刹那はハロに質問を投げかけた。

「ハロ、ロックオンはどうした」
「ロックオン、ロックオン、オコッテル、オコッテル」

ハロは刹那が聞きたかった事とは違う答えを返してきた。
刹那はロックオンの行方が知りたかったのだ。

「そうじゃない、ロックオンは何処へいった」
「ロックオン、ロックオン、カイガン、カイガン、アルイテイッタ、アルイテイッタ」

なるほど、ロックオンはハロを置いて、一人海岸を歩いていったらしい。
ロックオンはテロに対してかなりの反応を示していた。
一人になって何を考えているのか、刹那には全く予想が出来なかった。
ただ一人で考えたいだけなのか。
何故か自分を頼ってくれない事を刹那は悲しく感じた。
それだけロックオンの中でテロが占める領域の大きさが予測できた。
自分よりも大きな存在なのだろうか。
刹那は、ロックオンの後を追うことにした。

「わかった」

ハロにそれだけ言い残すと、刹那はロックオンを追うべく砂浜へ出た。
砂浜に出た刹那はロックオンの足あとを探した。
一人で歩いていったなら、砂浜には一人分の足あとしかないと踏んだからだ。
暗い世闇の中、刹那はロックオンの痕跡を探した。
そして、一筋の足あとを見つけた。

「これか」

刹那は人知れず呟いていた。
そして、一筋伸びる足あとを追いかけた。
サクサクという音だけが周りを包む。
ロックオンはこのサクサクと言う音の中、何を考えながら歩いたのだろう。
刹那は気になっていた。
何故自分を頼ってくれないのか。
ソレばかりが頭を駆け巡っている。

どれだけ歩いただろう。
海岸に黒い影を見つけた。
恐らくうずくまって座っているロックオンの姿なのだろう。
やっと見つけたと思いと何故自分を頼ってくれないのかと言う複雑な気持ちを抱えながら、
その黒い影に近づいていった。
やはり、海岸にあった黒い影はロックオンだった。

「いくらココが南国でも夜は冷えるぞ」

そういうとロックオンは振り返った。
いつもよりもかなり固い顔をしている。
まるで全てを拒むかのように。

「悪いな、一人にしてくれ」
「嫌だ」

刹那は即答した。
そして、ロックオンの横に腰を下ろした。
ロックオンと同じように体育座りで。

「頼むから一人にしてくれ」
「嫌だと言ったはずだ」

相変わらず固い顔のロックオンは刹那の顔を見ること無く言葉を発した。

「そんなにテロが憎いのか?」

刹那はいきなり切り出した。
確信の本文。
ロックオンが一人になりたがった原因。

「テロが憎くて悪いか」
「悪くない」

刹那の簡単な答えにロックオンは驚いた。

「俺にも消したい過去はある」

自分よりも8歳も若い少年に、消したい過去があるといわれた。
ソレは驚き以外の何でもなかった。
それに、刹那が自分の事を話すなんてマズ有りえないことだったからだ。

「俺達はただの人間じゃない、ガンダムマイスターだ、力の無い存在じゃない」

そうだ、確かに俺達には力がある。
テロリストが何処に居てまた何時テロを起こすか分からない。
ロックオンはただ焦れていた。

「テロを起こした組織は”テロ”と言うう”紛争”を起こした。その”紛争”に武力で介入する、行動をするのは俺達だ」
「ああ、そうだな。でも、まだ組織は特定されていないし」

確かにそうだ、世界中のエージェントが探しているが、まだ見付かっていない。
ただジッと待っているだけと言うのはとても辛い事だった。

「ロックオンは何故ソコまでテロを嫌う?」
「・・・」

ロックオンは一瞬言葉に詰った。
しかし、刹那の強い視線に負け言葉を発した。

「テロで両親を失った」
「・・・そうか」

ロックオンの告白に当たりは海の波の音だけになった。
刹那にはかける言葉が見付からなかった。
けれども、刹那は答えを手にした気がした。

「所で、お前は殴られたこと反省してんのか?」
「・・・」

少し表情が柔らかくなったロックオンが言った。
刹那は少しの間考えて、言葉を口にし始めた。

「俺は、両親を自分の手で殺した」

刹那の告白はロックオンにとって衝撃的なものだった。

「なんで!なんでそんな事をした!」
「神に認められるためだ」

神に認められるため。昔はそう思っていた。
神はこの世にあって、全てを掬い守ってくれると。
盲目的に神を信じていた。

「タリビアでの戦闘の時俺は少年兵をしていた」

刹那はポツリポツリと自らの過去を話し始めた。

「クルジスで、神に認められた兵士になるタメに両親を殺すように言われた。あの頃は、盲目的に神を信じていた」
「・・・そうか」

今度はロックオンがかける言葉が無いと口をつぐんだ。

「でも、どんなに戦っても神は現れなかった。ただ仲間が死んでいくだけだった。だから俺は神を信じない」
「確かに、神が居たら俺達なんか必要ないよな、きっと」

ロックオンは自らの希望を述べた。
確かにそうなのだ、神がもし存在していたのなら、一瞬にして世界の紛争や戦争を消してくれる事だろう。

「俺は一度その紛争の時に殺されそうになったことがある」
「へ?」

ロックオンは驚いた表情で刹那を見やった。

「MSに狙われた。その時現れたのがOガンダムだった。それからガンダムが俺の中で神になった」

刹那は切々と自分の中の考えを述べていった。

「そうか、だから刹那はエクシアにどっぷりなのか」
「ああ」

ロックオンは納得したように答えを返した。
刹那も重い過去を持っている。

「で?それがコックピットハッチを開けた事とどう関係があるんだ?」

ロックオンは素直に質問をした。

「相手のMSから発せられる声が似ていたんだ」
「似ていた?どういうことだ?」
「クルジスで神のタメに戦えと戦闘を歩いていた男の声に似ていたんだ」

ロックオンは納得した。
相手を確かめたくて刹那はコックピットハッチを開けたのだ。

「で?その相手は本人だったのか?」
「・・・ああ」

その答えにロックオンは驚いた。
クルジスで神のタメに戦えといっていた男がPMIに所属しているなんて。
そんな事が有っていいものなのだろうか?

「それにしても、ガンダムマイスターの存在はSクラスの秘匿義務がある。感情で突き動かされるな」
「そういう自分はどうなんだ?」

ロックオンはハハハハハと笑った。コレは一本取られたと思ったからだ。

「やっと笑ったな」

そういうと刹那はロックオンの手を握った。
握られた手からは自分よりも低い体温が伝わってくる。

「何故俺を頼ってくれなかった?」
「え?」

ロックオンは驚いた。
刹那にそんな感情があるなんて思っていなかったからだ。

「俺達はそんなに軽い関係だったのか?」

刹那の次の言葉で合点が行った。
俺達の関係は人には公に出来ない関係。
つまり、相談してもらえなかった事に刹那は嫉妬しているのだ。

「ロックオン、俺達の関係は何だ?」

刹那はロックオンの手を更に強く握り、そして覗き込んで聞いた。
刹那の強い視線がロックオンに注がれる。
簡単に答えられる仲では無い。
ロックオンが言葉に詰っていると刹那は更に追い込む様な質問を仕掛けてきた。

「ロックオンは俺の事をどう思っている?」

やはり簡単に答えられない質問。
ロックオンの刹那に対する重い気持ちが、なかなか口を開かせないで居た。
刹那の強い視線はロックオンに注がれ続けている。
ロックオンはチャラチャラと笑いながらその思いを口にすることを嫌っていた。

「今なら人は居ない。俺しか居ない。教えてくれ」

そうだ、誰からも一人で居る事を邪魔されたくなくて、かなり海岸を歩いてきた。
確かに、今なら周りに人が居る事は無いだろうし、聞かれる事も無い。

「なんていうかさ、刹那には負かされてばっかりいる気がするぜ」

ロックオンは苦笑いしながら答えた。

「好きだ、愛している」

そういうと、ロックオンは自ら覗き込む刹那の唇に自らの唇を重ねた。
その行動に満足したのか、刹那はロックオンの手を握ったまま立ち上がると、ロックオンも立つように促した。

「部屋へ戻ろう、テロの事なんて分からなくしてやる」

そういうと、ロックオンの腕を引きながら、歩いてきた道をコンテナへと戻っていった。







なんというかですね、チョット嫉妬してる刹那が書きたかったんですが、
全然嫉妬してないですね(爆
8話前半のかってな妄想によるお話です。
こんな出来事があったらいいなぁと。
そんな事を思いながら書きました。
ね、部屋に戻った二人は一体何をしてたのでしょうか(笑
その辺も書きたかったのですが、そしたら18禁サイトになってしまうのであえて書かない方向で行きました。